コレド室町 / Norio.NAKAYAMA
日本の道の起点となった場所でもある東京日本橋、問屋などが集まっていた古くからの商業地には今でも老舗が軒を連ねています。かつおぶしの「にんべん」もその一つです。
カンブリア宮殿では、318年の歴史がある「にんべん」の13代当主の“高津克幸(たかつかつゆき)”さんが登場しました!
日本橋だし場
日本橋にある『COREDO室町』の1階には「日本橋だし場」があります。味付していない“かつお節一番だし”を1杯100円で提供している、日本初のだしのスタンドバーです。
3年前にオープンした『COREDO室町2』には、かつおだしを使ったメニューを楽しめるお店があります。一番人気は“だしスープ膳”です。
“だしスープ膳”は、鶏団子のポトフがセットになっています。ポトフは最上級の本がれ節でだしをとっています。
おいしく楽しくワクワクして笑顔になるような誰でも簡単に本物のダシを味わえる場をつくりたかった。
日本の味のインフラ かつお節
“かつお節”は、日本人が最も大切にしてきた食材とも言えます。世界中を探してもこんなに硬く、これほど保存がきく食材はないと思います。
日本の歴史的な背景もあると思うが、日本は海に囲まれているので魚を使い、それを保存する必要があった。
その過程で“かつお節”が生まれて普及していった。味の土台で表に出ないし目立たないが、しっかり料理に使われてきた。
おいしさを決める土台となる“日本の味のインフラ”のようなものです。
かつお節の作り方
「にんべん」のかつお節は、静岡県焼津市で作られています。焼津市はカツオの水揚げ量が日本一です。老舗かつお節メーカー「山七」が60年間続く協力メーカーです。
カツオをさばいてから2ヵ月間もの間、燻しては乾燥させるを繰り返してできるのが“荒節(あらぶし)”と呼ばれるかつお節です。
スーパーなどある“削り節”の8割が荒節を使っています。にんべんで使っている荒節は、カビ付けを3回繰り返したものを使っています。プロも認める品質があります!
カビ付けの回数でどう味が変わる?
カビを付けることでかつお節の水分が減っていきます。生のカツオと比べると6分の1くらいになります。
カツオのうま味が6倍になって、より凝縮されたかつお節になる。
いぶした荒節は、生臭さやにおいが強くなるがそれがなくなり非常にマイルドで香りの良い“かつお節”に変わる
1杯100円の「だし場」はどう発想した?
本物のかつお節の出汁を手軽に知ってほしいという思いで始まました。最初は「お金を取っていいのか」という議論が社内にあった。
でも“料理の素”となるものでおいしくさせるための食材なので、若い人でも広く知ってもらえる体験してもらえる“場”がほしかった。
100円の出汁も店の中でかつお節を削っているし、その場で出汁を引いている。その流れも学んでもらえる店だと思う。
かつお節レシピ
「にんべん 日本橋本店」には、今までなかった商品を開発しては売り出されています。“だしおこげ”や“みたらしバウムクーヘン”など斬新な商品ばかりです。
常識破りの老舗かつお節屋
「にんべん」の創業者は伊勢出身の高津伊兵衛さんです。1699年に日本橋でかつお節を中心とした乾物の商売を始めます。
お店の名前は「伊勢屋 伊兵衛」にします。伊勢と伊兵衛に“にんべん”が使われていることから“にんべんさん”と呼ばれるようになります。
1948年に社名を「にんべん」に変更します。初代の頃から新しいことに挑戦してきました。“現金掛け値なし”は、客によって販売価格を変えない定価販売をします。
三越の前身である越後屋が始めて、伊兵衛さんもいち早く取り入れます。お店が客を見て値段を決める時代に画期的なやり方です。
ロングセラー商品
昭和の時代も「にんべん」は、常識を覆す商品を作り出します。それが大ヒット商品“つゆの素”です。かつお出汁は傷むのが早いため麺つゆには使えないと言われていました。
独自の殺菌方法や調合の仕方を工夫して、1964年に日本初のかつおの天然だしを使った”つゆの素”が完成します。
かつお節小分けパックの“フレッシュパック”は、酸化を防ぐために窒素ガスを入れて小分けにしました。1969年に日本初の酸化しない小分けパックが誕生します。
あらゆる可能性を探りかつお節を守る
1996年バブルが崩壊して売上が低迷しているとき、高津克幸(たかつかつゆき)さんは入社します。本店を見て危機感を感じます。
昔ながらの老舗の商いを見て“このままでは会社の未来はない!”そう思いました。新たな路線として、今までになかった家庭用商品を開発します。
“薫る味だし”は、本枯れのだしに天然のしょう油や砂糖が入った“だしパック”です。だしパックは、袋から出してチャーハンの味付けにも出来ます。
新商品の開発は常にされています。“新しい時代には新しい食べ方を”、あらゆる可能性を探りかつお節を守ろうとしています。
和食の底上げをする
福岡の小学校では、かつお節の良さを伝えるための授業があります。「にんべん」は、今では家庭で使われることがなくなったカツを節を削るところから伝えます。
“削りたてが一番香りがいい”、時間がたつと香りは飛んで行ってしまう。現状に危機感を持っている高津さんは、こうした活動を大切にしています。
パン食が増えると和食は減っていく
2005年のかつお節の生産量は、4万トンありました。それが、2015年には、2万7千トンに減っています。その原因とは?
お米の消費量が減っていて、パンの消費量がお米を逆転したり、いろいろな洋食を食べる機会が増えて、お米と一緒に食べる和食が減ってきていると思います。
パン食が増えるとお米の消費量がトレードオフで減っていくのではないか、そういう影響がかなりあると思います。
効率化の追求により“失われたもの”がある!
和食が世界無形文化遺産に認められて「菊乃井」の村田さんも言っていたが、「なくなりそうなものを保全するから“遺産”」と言っていて確かにそうだと思った。
私もパンやパスタは食べるが和食を食べる機会を広めていこう。なんとか和食を底上げできるように取り組んでいる。
ライバルが感謝する
埼玉県の川口には「にんべん 研究開発部」があります。今から35年前に品質を安定させる“かつお節カビ”の菌の特定に成功します。
研究員の荻野目さんが本を読みながら試行錯誤の連続です。いろんなかつお節の菌を培養して吹き付けて結果を見る。5年続けてやっと見つけ出しました。
先代の社長は、見つかった菌をライバル企業に無償提供をしてします。この結果、より品質の良い商品が市場に出回ることになります。
カビは温かい地域だと日本ではないが毒を作り出す場合がある。そういうことがない安全でかつお節に適したいい“かつお節カビ”を特定した。
業界発展が結果的に利益になると考えていた!
“かつお節カビ”に限らず「フレッシュパック」を発売した当時も、かつお節業界は厳しい状況で傾斜産業でなくなってしまうのではないかと
1960年代に食の西洋化が進みます。かつお節の需要は減っていきます。“フレッシュパック”が出来た時も製法を無償で公開しています。
縮小市場でも老舗が生き残こるために必要なことは?
そもそも老舗とは思っていない、お客様から認めてもらって初めて“老舗”なのです。
お客様から認めてもらえるような存在になるためのチャレンジをしていく、そういう姿勢でいたい。
絶品カルパッチョソースの作り方
にんべんのつゆの素は大さじ1入れます。ごま油を大さじ3入れたら、よくかき混ぜます。薄めに切ったカツオにタレをかけます。
ニンニクの薄切りとあさつきを小口切りにして散らしたら「カツオのカルパッチョ」出来上がりです。
編集後記
「鰹節」は、世界一硬い食材らしい。恐ろしく手間がかかる製法で作られる。
近年、冷凍、レトルト、インスタント食品、それに電子レンジなどが開発され、食生活の効率・利便性を飛躍的に向上させた。
だが、代償も少なくなかった。「手間をかけた食材、料理だけが持つ暖かみ」のようなものだ。
「にんべん」は、手間を惜しまない製法に、独自の工夫を加えることで、318年という長い歴史を築いてきた。
わたしは、「にんべん」のシンボルマークを見るだけで暖かい気分になる。創業以来の理念と、後継者たちの努力が凝縮されているからだろう。
硬い食材、柔らかな暖かみ・・・村上龍・・・
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