東京のど真ん中に数寄屋造りの料亭があります。まるで京都を思わせるような竹林に囲まれた玄関までのアプローチ、『菊乃井 赤坂店』です。
カンブリア宮殿では、日本料理にスポットを当てました。『菊乃井』3代目の村田吉弘(むらたよしひろ)さんが登場!
菊乃井 村田吉弘とは
京都の東山区にある『菊乃井 本店』は、1912年に創業します。100年あまりの歴史がある老舗料亭です。ミシュランでは3つ星を獲得しています。
村田吉弘さんは、1951年に菊乃井の3代目の長男として生まれました。特別な教育を受けた育ちました。小さな頃から最高の味に慣れ親しむ日々を過ごします。
修行期間はわずか3年、その後1976年に親の援助を受けて自分のお店を開きます。“とにかくやってみろ”という帝王学からだった。
お店を出すも誰も来ない日々が続きます。そこで料理本を毎日読み勉強することにします。調理の仕方から味や香りがどうやって生まれるのか科学的な分析まですることになります。
料理は、すなわち科学ですから料理を科学的な目で見ないと進化はない!
科学の導入で村田さんの味は磨かれました。お店は繁盛店へと変わっていきます。2010年にはミシュランで合計7つ星を獲得します。
幻のいなり寿司
東京の二子玉川にある「二子玉川タカシマヤ」では、デパ地下に行列ができるお店があります。その先にあるのは、菊乃井の“いなり寿司”です。
人気のヒミツはジューシーなお揚げにあります。京都の老舗豆腐店より取り寄せた油揚げを使っています。すぐ裏で握って出来たてを提供しています。
1コ195円の“いなり寿司”は飛ぶように売れていきます。ちまたでは“幻のいなり寿司”と呼ばれて100コ限定の商品は昼過ぎに売り切れてしまいます。
菊乃井 赤坂店
『菊乃井 赤坂店』の建物は、京都の有名な棟梁の手によって作られた数寄屋造りです。コース料金は、1万5,000円からです。
1万5,000円のコース料理
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懐石料理の前菜と呼ばれる“猪口(ちょく)”は、柚子釜豆腐です。旬の柚子をくり抜き特製の投入を入れて蒸しあげています。菊乃井オリジナル料理です!
お造りの“向付(向付)”はメジマグロの中トロに辛子を添えてあります。卵の黄身をしょう油で和えた黄身醤油で食べます。
厨房では中居さんと連絡ととるスタッフがいます。料理人が連携を取りながら料理を仕上げていきます。
“蓋物(ふたもの)”は、甘鯛の粟蒸しです。蒸しあげた甘鯛に春菊のソース、出汁で炊いた青み大根と金時人参が入っています。目にも美しい1品です!
“焼物(やきもの)”は、比叡山の紅葉を炙り焚き火を演出します。カマスと椎茸を杉板で蒸し焼きにします。
仕入れと下準備
菊乃井の赤坂店では、京都の本店で使うモノと同じものを毎日仕入れています。瀬戸内海などの魚介類をトラックが8時間かけて運んできます。
明石の鯛は、玄関先でシメてから厨房に運びます。鯛が暴れてしまうと身が悪くなるので、味を落とさないための工夫です。
仕入れの後は下準備をします。料理を作るのはお客さんが来てからです。お客さんに出す時間からの逆算で作業は進めていきます。
毎月メニューは変わる
旬の食材にこだわる菊乃井では、月ごとにメニューを変えています。10品以上のメニューは村田さんが作り、ポイントを料理人に伝えていきます。
2004年に『菊乃井 赤坂店』をオープンさせました。その時にこだわったのは、“普通の人も手の届く料金”です。
普通の人が普通に働いても来られないような料理屋は、ある特定の人のための施設でしょ。
若い方などいろいろな方に来てもらい、喜んでいただきたい!日本料理に親しんでいただきたいし、日本料理を広げていきたい!
簡単美味!ローストビーフ
牛のもも肉300g(4人前)は、表面だけ色目がつく程度に焼いておきます。つけ汁は酒200CCと醤油50CC、みりん50CCです。煮切ってアルコール分を飛ばします。
ジッパー付きの袋に牛肉とつけ汁を入れます。ジッパーを閉めるときに空気を抜きます。約58度のお湯で1時間温めます。
タンパク質は58度で凝固が始まるため、牛肉の中に軽く火が通った状態になります。浮いてこないように落とし蓋をします。
調味料はくず粉でとろみをつけソースにします。辛子を添えて出来上がりです!
こだわりのすっぽんスープ
菊乃井では、家庭にも本格的な日本料理の味を届けたいとネット販売をしています。“すっぽんスープ”は、商品化に5年をかけた菊乃井の自信作です。
愛媛県の宇和島市にある養殖場「水幸苑」で育てた3年物のすっぽんを使っています。エサは鯵のすり身に高麗人参など混ぜて無添加にこだわりました。
結局、帰ってくるところは自分の民族的な食べ物しかない!それをおろそかにして次の時代に残していかないのは犯罪にも近い!
日本料理が驚きの進化
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村田さんは、ただの料理人ではありません!安倍総理の外遊に同行して各国首脳とのレセプションでは総料理長になるほどの人です。日本を代表する料理人です!
和食は3年前にユネスコの無形文化遺産に登録されました。その時に働きかけたのが村田さんです。絶滅危惧に近い状態の文化を守ろうとしています。
日本食レストラン「トキメイテ」
イギリス・ロンドンにある日本食レストラン「トキメイテ」は、JA全農が経営にあたり村田さんがプロデュースしました。
このお店のウリは和牛です!2014年にEUへの和牛輸出が解禁になって、ココから和牛を広めていこうとしています。
スコッチの本場でのイベントは、和牛の料理とサントリーのウイスキーのコラボです。和食に目を向けさせることが目的です。
A4ランクの和牛に合わせる料理は、イチジクのソースです。イチジクをペースト状にしてバニラビーンズを入れます。煮詰めると八丁味噌が出来上がります。
醤油の中にもバニリンという香り成分が入っている。醤油の発酵過程で出てくるバニリンをバニラを入れて補う。
イチジクで八丁味噌が出来上がり、味噌がどうやってできるか科学的に分かっている。
カツオも昆布も味噌も醤油もない所で「無理です」と言ったらそれで終わり、全然モノがなくても日本料理の料理人である限りは“日本料理”を作らないとダメじゃないですか!
村田流の八丁味噌の作り方
八丁味噌は長期熟成でアミノ酸と糖の「メイラード反応」が進み、独特のうま味が引き出されます。イチジクに含まれるタンパク質や糖に熱を加え「メイラード反応」を起こし八丁味噌の近い味を作り出しました。
和牛とサントリーのウイスキーコラボイベントは、大盛況に終わりました。
これだけの評価を得られた日本の食材はすごい、それを世界に広めていくのが僕の使命の一つでもあるので頑張っていきたいと思います。
和食は“絶滅危惧種”
昭和30年代半ばにアメリカの大統領が世界の民族の食べ物を調査させました。糖質と脂質とタンパク質が正三角形の理想的な国が1ヵ国だけありました。それが日本だったんです。
正三角形だった国が今は「これは三角形か?」となっています。脂質とタンパク質が多すぎて、自分たちの民族の食べ物を何十年の間に根本的にひっくり返した国は世界にありません!
料亭「菊乃井」の人材育成
京都の東山区に「菊乃井 本店」があります。厨房では総勢29人のスタッフが一心不乱に働いています。ただし上の人にはモノも言えない堅苦しい上下関係はありません!
今年の春に入社した新人には、先輩が専属のコーチなります。マンツーマンで基本を教えます。細かいところまで教え込むから新人は最短距離で前に進むことが出来ます。
指導する先輩にもメリットがあります。「分からない」と言われると先輩としての威厳も保てないから、常に勉強はしています。
“見て盗め”はもう古い
お客の料理を作れない新人にとって、賄い作りは一番の修行の場です。ここで日本料理の知識や技術を実践的に身につけます。
本日のメニューは“筑前煮”になりました。賄いは専属コーチが味見をします。そして、村田さんの試食へと運ばれていきます。村田さんの反応は?
山椒は入ってないな?山椒を入れた方がおいしい、絶対に香りは何かを考えなければダメ!香りによって全く料理が変わる。
できるだけ自分のトレーニングになる“まかない”を作りなさい!
菊乃井のパソコンの中には、「菊乃井大全集」というファイルがあります。その中には、今まで出されたレシピが記録されています。菊乃井のスタッフなら誰でも見ることが出来ます。
材料の種類とその正確な量、調味料の量や作るさいの調理時間まで明確に記されています。やる気さえあれば村田さんの味を覚えることが出来ます。
「盗め」「見て覚えろ」よりは親切に教えてやらせてみて、「そこがちがう」「こうやれ」と言われる方が格段に成長する。
早く覚えさせて早く一人前にして早く世の中に出していかないと、機械で済むことは機械にやらせた方がいい!
若い子に「修行だ」と2時間ゴマをすらせるよりフードプロセッサーでやったら7分で済む。修業がつらくて悶々として暮らすのはやめさせなければ
真の料理人は考え抜くことから始まる
料理人は考えないとダメ!料理という字は「理を科りさだめる」と書きます。
料理人は「理を科りさだめる人」だから、どういう「理(ことわり)」を持っているのか、お客がどういう状況で料理を食べるのか、いろいろ考えて、その考え方が深いほどいい料理ができる。
料理人は素材の良し脚とか盛り付けよりも、まずは考えなければダメ!
村田流「食育」とは
村田さんは小学校を訪れて「食育の授業」をしています。本物の味を知って欲しい、和食に興味を持って欲しいと小学校を回っています。
子どもたちの文化でもある“和食”を守るために、村田さんは手を尽くし続けます。
子供は大切、これからの日本を支えてもらわなくてはならない!日本の文化とか、日本の食べ物のことを理解してもらうのは必要やね!
編集後記
優れた料理人には独特の雰囲気がある。修業時代の苦労の痕跡がなく、威張ることもなく、事業展開に対しては慎重だが、フットワークは軽い。
考えてみれば当然だ。自他共に認める才能と実績があるので威張る必要はなく、慎重な熟考が、軽快な行動に結びつく。
村田さんには「和食を世界に」という目標がある。今や世界は「遠い海の向こう」ではない。料理に限らず、世界水準を目指さなければ国内でも衰退する。
和食は遠からず、文学や映画や美術や音楽と同じように、国を象徴する文化となっていくだろう。
ワールドクラスの和食・・・村上龍・・・
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